一瞬の風になれ 第三部

陸上と三回目の季節のものがたり。→ 一巻感想(id:reri:20060830:p1)二巻感想(id:reri:20060924:p2)

一瞬の風になれ 第三部 -ドン-

一瞬の風になれ 第三部 -ドン-

あー…、読み終わっちゃった……しょんぼりです。「終わってしまった!」というよりは「読み終わってしまった…」という読後感でした。「小説」としては終わってしまったかもしれないけど、新二や連の「物語」は決してここで終わるわけではなく、ずっとずっとこのまま続いていくんだ……、そう信じることができる、名残惜しくも素敵な最終巻でした。もっともっと読み続けていたかったし、続きが読めないことは悔しい限りですが……この本を読めたことは本当に幸運だったと思います。しかし、よくもこんな、日々のあらゆる要素をめいっぱい詰め込み、日常を切り取った「男子高校生の日記」のような小説がこんなにも面白く存在できるものだな、と、そういう面でも感動することしきり(普通なら「もっと絞れよー!」と文句のひとつでも言いたくなるところなのに!)。
陸上競技ひとつにしても、1、2巻を読みながら確かに不思議だったんです。100mやリレー(4継もマイルも)や200mや競技さえもめいっぱい詰め込んで新二達にいっぱい走らせて、めいっぱいな分「物語」として描くのは不利だろうに、どうしてこんな形にしたのかなって。でもそれは新二と連の言葉でその意味が漠然とわかった気がしました。

「勝負しよう」
俺は言った。
「かけっこだ」
「全部だ。100も200も」
「一緒に走ろう。4継もマイルも」
すると、連の顔にさっと明るい笑みが浮かんだ。
「だろ?」
と連が言った。
「そうだろ?」
そうだよ。

素敵な言葉です。
ラストの100mから4継の流れとかも凄かったなあ。競技もそうですが、谷口さんとのことも、健ちゃんについても、大きなまとまりではなかったかもしれない。けれど、こういう風にぼんやりと、けれど、なんでもかんでもめいっぱいなのが青春ですよね(真顔で) きれいに飲み込み消化することだけは、大人になってからいくらでもできるのですから。
あー! おもしろかった!!!
<バレ反転>こういう終わり方って(まだ200mのレースさえ残した関東大会終了だなんて!)不満に思ったり、陳腐になったりしがちだと思うんですが(個人的にもあんまり好きじゃないですし(バッテリーしかり))、でも、この小説に関しては新二の語り口のせいか、素直に「よかったな」と思えました。あーでも健ちゃんはもう一声欲しかったかも…。</バレ>
あ、あと、北見くん…。なんか登場シーンの二行くらいの描写にぐわっと心の萌えツボを握りこまれ、「き、北見くん…!」ってなりましたよ、というメモ。佐藤多佳子恐るべし。
更に自分引用メモ

「自分が何を持っていて、何を持っていなかったか。持っていないつもりで何を持っていたのか。持っているつもりで何を持っていなかったか」

ページをめくるたびに胸がぎゅっと苦しくなったり、口元が無意識に綻んだりするような小説は久しぶりでした。よいもの読んだ。わりと今年の個人的ベストかもしれない。ありがとうございました。