夜に訪うもの

夜の言葉―ファンタジー・SF論 (岩波現代文庫)

夜の言葉―ファンタジー・SF論 (岩波現代文庫)

ル=グウィンが「SF/ファンタジー」、自分の作品などを解説したエッセイ集。どれもものすごく面白い。創作について、SF/ファンタジーについてに思いを馳せたことがあるならば、多分本当に面白いと思います。ル=グウィンの一貫した主張である「『SF/ファンタジー』はもっときちんと批評されるべき!」、「それらが描き出しているのは”人間”である」…という声は、時としてあまりに生真面目で理想論的なのかもしれないけれど、その硬質な姿勢に「なんと高みを見据えている作家なのだろう…」とちょっと感心してしまいました。SF/ファンタジーのジャンルのありかたとか、多少、書かれた当時の時代性みたいなのを感じる部分もありますが、それも含めて面白いです。
個人的には「エルフランドからポキープシへ」「アメリカ人はなぜ竜がこわいか」「SFにおける神話と原型」「SFとミセス・ブラウン」あたりの章が特に面白かったかな。
個人的に、ファンタジーを読んでいて時おり不満に思うのは、その語彙であったり文章であったりするわけですが(そこに引っ掛かってくると読み進めることが難しくなる)、「エルフランドからポキープシへ」の章にある
「なぜファンタジーでは文体がかくも根源的な重要性を持っているのか。」「それは、ファンタジーにおいては、世界に対する作家のヴィジョン以外にはなにものも存在しないからです。」「あるのはただ、接合部も合わせ目も釘もすべてが露出した、虚空に浮かぶ構造物のみ。」
……そんなわかってるはずだったことにものすごく感銘をうけたりしました。
そもそも、タイトルからしてすてきです。

わたしたちは、人間は昼の光の中で生きていると思いがちなものですが、世界の半分は常に闇のなかにあり、そしてファンタジーとは詩と同様、夜の言葉を語るものなのです。