アドルフの画集

映画『アドルフの画集』を観てきました。

1918年のミュンヘン。一次大戦で片腕を失い、画商となったマックスは、画家志望の復員兵、アドルフ・ヒトラーと出会う。画家としての才能が開花せず、政治に傾倒していくアドルフと自分自身の不安定さを押し殺しながらも、奇妙な友情を結んでいくマックス。そして一時、芸術を通してわかり合ったかに思えた彼らにも、また大きなすれ違いが訪れる……。


「男が自己をやり直すのは、ただ女によってでしかない。あるいは戦争、革命によってでしかない。」ポール・ニザン『陰謀』
この映画は個人の変革の前の混乱と、そして大きな空虚さを描いた映画だと思いました。アドルフは戦争によって失った何かを、革命もしくは戦争で取り戻そうと……、一方マックスは失った片腕と画家としての未来をもしかしたら女で取り戻せたかもしれない……、その端緒を得たところで終わっています。映画の中でアドルフは露骨に現状への不安定な心の揺れ動きを言い表し、一方マックスは一人孤独に「今」に絶望している。そしてその対比の中で、二人ともが持っている芸術への情熱と孤独や怒りを表現したいという思いが、さらに二人をすれ違わせ、また結びつけている様は、なんというか、非常に胸に迫るものがありました。結局アドルフは政治で自分の孤独や怒りを表現できる可能性に気づいてしまい、少しずつ道がずれてしまうのですが……。この映画を観ながら思い出した、上記したポール・ニザンの言葉のような段階に至るまでには、本当にいくつもの「if」が隠されていたのだな、と思いました。歴史は一つで、もしかしたら結局回り回っても同じところへ行き着くものなのかもしれませんけれど。

あと、「才能」ってなんなんだろう、とか、芸術を言語化して描こうとする難しさとか、色々考えさせられて、映画の内容も重かったこともあり、観た後非常に落ち込みました。

うーん、全然まとまらない。映画館で見る系の映画ではないのかもしれませんが、こんな雰囲気の映画がお好きな方はいいかも。