文士風狂録

交遊録や自伝の類の本が好きです。そこにあるのは個性的かつ魅力的な人々の記録であり、郷愁溢れた情感たっぷりな誰かの記憶…物語である。……などなど色々言おうと思ったのですが、読んでいると何より「養殖ものは天然ものは敵わないってことさ……!」って気持ちになりますすみません。すもえは偉大です素もえ……!(ぶちこわし)
というわけでこの本読みました。

文士風狂録―青山光二が語る昭和の作家たち

文士風狂録―青山光二が語る昭和の作家たち

戦中・戦後の時代を生きぬいてきた93歳の現役作家、青山光二聞き書きの一冊。盟友の織田作之助との青春時代や、太宰、安吾林芙美子、三島ら文士たちの素顔が語られている。
個人的には戦中、戦後すぐのあたりの話が非常に面白かったです。混沌とした時代背景も聞き書きのためにかたちをもって立ち上がってくる感じ。なお太宰とのエピソードには思わず震えました…。以下引用。

「一緒に死のうよ」
タクシーが渋谷に近づいたとき、太宰は突然、青山に言った。
「死のうよ、生きていたってしょうがないじゃないか」
(中略)
「太宰さん、男同士が一緒に死ぬなんてみっともないですよ。死ぬのなら、相手は女の方がいい……」
どうこたえていいのか困った青山が、つぶやくように言うと、
「そうかね」
太宰はくすっと笑って、この話を引っ込めた。

青山の親友、織田作之助の葬儀の帰りの会話である。続けて、太宰の死について青山さんは次のように語ったという。

「タクシーでの会話のように、女の人を口説いたんでしょうね。(中略)最後の決断をして『死にましょう』と言ったのは女の方だと思いますよ。太宰さんには、女を引っ張って死んでいくという男性的な意気込みはないですから……」

引用おしまい。
ちくしょう。なんだこれ。すてきすぎる。言い表わす言葉がないのですが、「ああ、そうだよ! 求めていたのはこれなんだ!」といまいち決め手に欠けたケーキ屋で食べたかった煎餅掴んで叫んでる感じですよくわかりません。ううん。この「これだーー!」な気持ちはいつになっても上手く言い表わせないのですが、個人的にはこの感じを求めてこのような本を読んでおります。
なお、特筆すべきは中心にいるはずの青山さんの何ともいえない揺らぎと透明感。この語る青山さんの位置が、この交遊録をつくり上げていったのだろうなと思わせられました。
ちなみにこの手の本でのじぶんベストオブベストは彫刻家であるジャコメッティとそのモデルになった矢内原伊作との交流を、矢内原の親友の宇佐見さんが記録したこの本です。

見る人 ジャコメッティと矢内原

見る人 ジャコメッティと矢内原

これです。わりと気持ち悪いくらい読み返してる。ああ、もう駄目…っていうときに読む。個人的な好みで宇佐見さんの本のほうにしましたが。矢内原さんの方の本も素敵です。ISBN:4622044145。そのうちこの本について書いて不興をかったりしようと思いました。